片岡昌展をご覧になった方でお気づきになった方もいらっしゃるのではないでしょうか?
現在放送中の木村カエラさん出演の明治製菓 キシリッシュのCMが片岡昌の作品 STRIPED STREET の発想とそっくりですね!STRIPED STREETは、白黒のストライプの背景の前で、同様に白黒ストライプの人物がパフォーマンスをするというイベントを開催した後に描かれた作品です。そして、まさに、このCM同様に、人物が背景に一瞬とけ込むような視覚効果が得られたとのことです。
偶然の一致でしょうが、こうしたトリックアート的な視覚効果のおもしろさを片岡が先駆的に取り入れていたことが、ここからも伺えるのではないでしょうか?
明治製菓 キシリッシュCM でCMをご覧になれます。是非見比べてみてください!
明治製菓 キシリッシュCM[2010] より
STRIPED STREET(群像)[1982]
STRIPED STREET(立像)[1982]
STRIPED STREET (群像)(1982)
STRIPED STREET (立像)(1982)
赤レンガ倉庫(1979)
STRIPED STREET と名付けられたシリーズ作品。 (群像) は白黒のストライプを、そこに人体があるかの様に「曲げて」書き込む事で、立体的な人体の存在を感じさせる平面作品です。一方 (立像) の方は半立体の作品なのですが、立体の人体のストライプが背景のストライプへ溶け込み、遠くから見ると平面の様に見える作品です。
赤レンガ倉庫 は STRIPED STREET に先立って作られたシリーズの作品。こちらは良く知られた横浜の 赤レンガ倉庫 を背景に、まるで「透明な巨人」が立っているかの様に、風景が屈折した様子が描かれています。
この様な表現は、光の屈折を計算して絵を描画する レイトレーシング を活用した現在の 3DCG 技術を使えば、簡単に再現できます。しかし、当時片岡昌はこれらの絵を光学的な実験等を経ず、赤レンガ倉庫の参考写真等だけを元に頭の中だけで光の屈折のシミュレートを行い描いていたそうです。
この事から、片岡は平面作品においても、立体造形で培われた立体物の把握・構成力を強く生かして制作していたと考えられます。一般に平面作品と立体作品は別ジャンルの美術表現と捉えられますが、劇人形や立体作品を見れば一目瞭然の片岡の立体造形力、「近未来計画」シリーズやその他の風刺画といった作品において発揮されている微細なリアリズムと極端なデフォルメを自在にミックスする平面での表現力、これらは片岡の中では1つの能力として鍛えられ、発揮されてきたのかもしれません。実際に、過去の作品シリーズ “クロスオーバー人形展”, “STRIPED STREET”, “近未来計画” は1つの個展で展示されるシリーズ作品の中に、平面と立体の作品が入り交じった物でした。片岡昌の表現は、平面と立体、2次元と3次元という垣根など元々無いかの様に軽々と行き来してみせています。
紹介した作品は、10月5日まで「片岡昌展 超次元アートと『ひょうたん島』」にて展示しています。立体と平面を行き来する、自由な発想から生まれた作品をお楽しみ下さい。
裏返るビーナス(1972)
アラ、見てたのね(1972)
写真の「裏返るビーナス」は、人体の上半分と下半分がお腹の所で裏返っている、トリック・アート的な不思議さを感じさせる作品です。上半身と下半身を別々にみれば、一見普通の人体彫刻の様にも見えますが、「裏返っている」お腹の部分を見ると、この立体作品がゴムの様にぐにゃぐにゃと形を変え続ける曲面でできていて、現在はたまたま人体彫刻の様な形状をしているだけ…とも感じられます。「リアル・トポロジー」と呼ばれるこれら立体作品のシリーズは、数学のトポロジーで扱われる「形を自由に変えられる曲面」の様に感じられる非現実的な質感と、西洋彫刻の様に存在感のある写実的な質感を同時に持っています。
同シリーズの「アラ、見てたのね」もやはり、同じ様に中身のない、曲面だけでできた人体をイメージさせます。裸の体をさらに「脱いだ」らそこは何も無い空間だった、というのは見る人をドキッとさせるしかけでもあり、このまま全部脱いだらこの女性はどこへ消えてしまうのか?とSF的な想像力が刺激される作品でもあります。
この他に「ある曲面」では男女のトルソが1つの曲面の表と裏を共有し、また別シリーズの作品「勤め上げし父の肖像」でも形を無機物へ変形させた人体が表現されています。これらの奇妙な変形を伴った人物像は確実に「実在しえない」ものですが、人体の細部の表現が極めてリアルに作られているため、全体として実在感・存在感のあるものとして迫ってくる表現になっています。虚と実という相反する感覚を同時に刺激される所が、これらの作品の魅力の1つといえるでしょう。こういったリアルさを追求した表現を、片岡は「部分リアリズム」と呼んでいます。[片岡昌展カタログ90P]
片岡によれば、「リアル・トポロジー」の「トポロジー」という単語は、これらの作品を見た坂根厳夫氏の発言から借りてきたそうです。坂根厳夫氏は「遊びの博物誌」[1977]の中で「裏返るビーナス」「アラ、見てたのね」など片岡の作品数点を紹介し、こういった立体表現や、古来からある妖怪などのイメージ等が、人体イメージに「数学的操作」を加える事で生まれたと考える事もできるのではないかと述べています。
紹介した作品は、10月5日まで「片岡昌展 超次元アートと『ひょうたん島』」にて展示しています。写真では伝えきれない、立体造形の面白さをご確認下さい。
坂根厳夫氏による片岡昌作品の紹介がある書籍を 片岡昌展 超次元アートと『ひょうたん島』 ストア にまとめてあります。特に 遊びの博物誌 1, 遊びの博物誌 2 は私も繰り返し読んでいる魅力溢れる本です。版元品切れのため古本でしか手に入らないのですが、値段もお手頃ですので是非読んでみて下さい。
4月11日に再度アトリエを訪問し、片岡の組み立て立体作品『アフリカンマザー』の組み立て作業の予行練習と撮影を行いました。3m近いかなり大きな作品なので、組み立ては一苦労です。今回は三人で作業しましたが、作品制作時には一人で全て行っていたというのですから驚きです。それでは、効率の良い方法を思い出しながら作業開始です!
組み立てが完成した後に、電源を入れるとマザーのお腹の部分にいるベビーがくるくると回転します。動きにも問題がなかったので一安心。多少塗装が剥げている部分もあったので、修復し展示することになりました。次第に組み上げられていく様はダイナミックで面白いものですね。