シェイクスピアの「マクベス」を、アフリカのプリミティブアート・仮面などに着想を得たデザインの人形達に演じさせています。人の形に限定されない面白さと、人形のモノとしての存在感が強調されています。
曲線と、軸で回転させた回転体
劇人形は撮影中に壊れてしまう事もあり、同じ物をたくさん作る必要があります。「ひょっこりひょうたん島」は登場人物が多く、また月〜金の帯での放送であったため、その人形制作もハードなスケジュールを要求されました。そこで、人形の基本的な形状の作成を外注できる様にするため、木をろくろで削った「回転体」という幾何学的なカタチを組み合わせたデザインを使う事が考案されました。
自由にデザインした立体的な形状を平面の設計図で正確に伝えるのは困難な上、発注先の技術の上手・下手によって結果にブレが生じてしまいます。一方、平面の回転体であれば、回転軸に対する曲線を示すだけで、どこに発注しても正確に同じ形状の立体を作らせる事ができました。
片岡昌によれば、これら「ひょうたん島」の造形に関して、後の3次元コンピュータ・グラフィックス (以下 “3DCG”) と似ている、という指摘をされた事があるそうです。これはどういった理由でしょうか。
3DCGでは、表示される物体は全て、その形状や光のあたり方等が数学的に「計算可能」である必要があります。現在はコンピュータの進歩により、どんなに複雑な形状でも「計算」できる様になったといえますが、80年代後半から90年代前半までの初期の3DCGにおいては、単純な数式で表せる形状しか「計算」する事ができませんでした。具体的には、多面体や楕球体、多角錐、三角形を組み合わせた形状(ポリゴン)、そして回転体などが「単純な数式で表せる」単純な形状でした。初期の3DCG作品をよく見るとこれら単純な形状の要素を組み合わせた形状となっている事がわかると思います。
こちらも楕球体や回転体からなるキャラクター
JOHN LASSETER 他,”The Adventures of André and Wally B.” 1984
後にピクサーを作ったスタッフらによる初期3DCGアニメーション
3DCGでは直方体やポリゴン等回転体以外の形状も利用可能でしたが、回転体はなめらかな曲面を持ち、比較的自由に形を作る事ができる利点があったため、キャラクターの姿を表現する場合などは、特に回転体が利用される事が多かったと言えます。(また、実際の3DCGではこれらの形状を曲線に沿って「曲げる」事でより豊かな形状を作り出しています)
つまり、「ひょうたん島」の場合は「単純な図面で正確に形状を伝える事ができる形」、3DCGの場合は「単純な数式で正確に形状を計算できる形」として回転体を採用した、という共通点があった事がわかります。
「ドタバータ」(オリジナル版)
頭のパーツは回転軸をやや傾けている
「ひょうたん島」の人形をよく見ると、回転体というシンプルなカタチでも、曲線のデザインの仕方、その回転軸をどの角度で合わせるか、といったバリエーションにより、幅広いデザインで親しみやすいキャラクターが生み出されています。今回の企画展の展示を通してご覧いただけば、こういった立体的なデザインセンスも、片岡の卓越した立体造形力に裏打ちされた物である事がわかると思います。3次元空間にいかに「存在感のあるキャラクター」をデザインするか、という視点では、現在の複雑な形状が表現できる様になった3DCGのデザインにおいても参考となる点もあるのではないでしょうか。
ご紹介した人形は、10月5日まで「片岡昌展 超次元アートと『ひょうたん島』」にて展示しています。是非ご来場下さい。
ひょっこりひょうたん島の関連商品は。 片岡昌展 超次元アートと『ひょうたん島』 ストア(Amazonからの購入) よりどうぞ。
ドン・ガバチョ
左がオリジナル版
魔女 ルナ
左がオリジナル版
日本中の子供たちが熱狂したと言われる人形劇、ひょっこりひょうたん島。今回の展示では91年より放送されたリメイク版の人形に加え、なかなか見られる機会のない60年代のオリジナル版と、パイロット版の撮影で使われた人形も展示します。
1964年〜1969年にかけて放送された「ひょっこりひょうたん島」オリジナル版は、当時高価だったビデオテープを「上書きして使い回し」していたため、再放送ができない「幻の番組」でした。
その後、番組のファン達の期待に応える形で、リメイク版が1991年〜1996年に制作・放送されました。人形もこの放送のために再制作され、いくつかの人形はより洗練された形にアレンジされています。例えば「ドン・ガバチョ」(写真上、オリジナル版は帽子の欠け、ヒゲの歪み有)では、手や目の形がマイナーチェンジされた程度ですが、魔女ルナ(写真中、オリジナル版は髪の毛の劣化有)では髪色・肌色の色調、手の形の変更に加え、顔のカラクリを動かす為の切れ目をうまく隠し、より妖しい美しさを持つ魔女を生み出しています。(女性のキャラクターはより美人になる様変更された傾向があります)
今回の展示では、ひとみ座に現存した物については「オリジナル版」「リメイク版」の両方を展示しています。是非、デザインの変化をよく観察してみて下さい。
パイロット版 ハカセ
目と足の部分欠け
また、オリジナル版に先立って制作された「パイロット版」の人形も展示しています。実際に制作されたものよりも小さいサイズですが、回転体を基本としたデザインや、カラクリを使い動きの面白さを狙った人形を作る方針ができあがっている点が注目できます。
ご紹介した人形は、10月5日まで「片岡昌展 超次元アートと『ひょうたん島』」にて展示しています。是非ご来場下さい。
DVD NHK人形劇クロニクルシリーズVol.2 ひとみ座の世界 ひょっこりひょうたん島 と NHK人形劇クロニクルシリーズVol.5 新諸国物語 笛吹童子 ひとみ座の世界2 には、オリジナル版の現存する映像が全て収録されています。オリジナル版をもう一度見たい方は是非こちらをどうぞ。
また、リメイク版は、全話がDVD-BOXとして入手できます。 片岡昌展 超次元アートと『ひょうたん島』 ストア(Amazonからの購入) よりどうぞ。